残念ながら、審査会は非公開で行なわれましたので、審査の内容をつぶさに見聞することは出来ませんでしたが、審査会に先立ち、清水氏より風力発電部会部会長宛てに意見書が提出されましたので、その全文を紹介します。
平成18年7月31日
環境影響評価審査会
風力発電所部会
部会長 山口克人 様
朝来市生野町菖蒲沢
区長 清水 隆夫
段ヶ峰の風力発電に関する意見書
貴委員会におかれましては、今般地元住民の意見を聴取する機会を与えていただき厚くお礼を申し上げます。
与えていただきました時間内では、十分ご説明申し上げ、また、質疑いただく余裕がないと思いますので、ここに文書で事前に意見を提出させていただきます。
現在、民間企業二社によって朝来市、宍粟市において計画されている段ヶ峰周辺の風力発電について、地元としては賛同し、ぜひ実現されることを強く願っています。
ご存知のように、風力発電はどこにでも設置できるものではありません。
風がなければ設置しても意味がありません。
幸いこの地域は風況が良く、平均30%以上の稼動が見込まれています。
I.風力発電所建設の意義の再確認
すでに栃原区、菖蒲沢区として以前に要望書を提出いたしました折に申し上げました点と重複する部分もありますが、この事業の意義は、
- 国が進める地球温暖化防止策に大きく貢献すること
- 県が掲げる「風力・太陽光などクリーンエネルギーの普及」に貢献すること
- 地球温暖化防止に役立ち、人類のみならず、イヌワシを含む全生物の生息環境の保全に有意義であること
- 過疎地域に住む我々住民に、地域の振興と活性化をもたらすこと
- 道路整備による生活道路の改善と緊急車両のスムーズな運行に伴う安心、安全な生活が保証されること
- 若干の山林破壊があったとしても、林道が整備されることは、水源涵養保安林である森林の荒廃の阻止が図れるだけでなく、自然保護に資するものがあること
- 風力発電施設の存在は、子供たちに対する地球温暖化防止の何よりの環境学習であること
- 風車群の存在は自然と人工の調和する美しい景観を創り出し、観光資源として大きな期待がもてること
- 不況にあえぐ地域産業の活性化に繋がること
- 周辺にさらなる風力発電が期待でき、地域の有力な新規事業となること
などの諸点が考えられます。
II.地元住民の思い
一方、これに対して、イヌワシ研究会をはじめ、自然保護団体は特別天然記念物イヌワシが生息している以上、計画は中止されるべきと主張しています。
都会人のノスタルジア、あるいは研究者の熱意がそう語らせるのでしょう。
しかし、我々地元住民の日々の生活をご推察願いたく存じます。
余り収益も期待できない田畑を管理し、もはや全く経済性のない森林に囲まれながら、なんとか生存の活路を見出すべく戦っています。
それは経済問題だけでなく、過疎と高齢化の波との戦いでもあります。
地元が新規事業として期待している風力発電までも中止に追いこまれれば、ただでさえ重荷を背負っている人々の意気は消沈することでしょう。
人々の思いはいつしか、いかに努力しても過疎と高齢化の波には勝てないということになり、耕地は荒れ果て、国土の保全さえままならない状況に陥るのではないかと危惧する次第です。
III.風力発電とイヌワシの共存の道を見出す
これを避ける道は、風力発電とイヌワシの共存の道を見出すしかないと考えます。
(1)イヌワシの減少要因と対策
イヌワシの減少は、針葉樹の植林により落葉広葉樹林が減少し、小動物は餌不足に陥り、その個体数が減少したことに起因していると言われます。
また、一説には昭和45年頃、日本全国に蔓延した山兎(やと)病(大原病)により兎の個体数の極端な減少が原因しているとも言われています。
2004年度のイヌワシの繁殖率は17%であり、このままの状況ではイヌワシの個体数減の問題は決して解決しないでしょう。
国、県その他の関係者による餌場の確保を含めた個体数増への抜本的な対策が講じられるべきです。
(2)バード・ストライク(衝突死)対策
風力発電予定地におけるバード・ストライク(衝突死)の対策として、
- ローターへの赤色塗装を行なう
- 白色閃光灯を設置する
- 風力発電施設全体を取り囲む排水路の上に小動物の侵入を阻止するフェンスを設置する
など、可能と考えられるあらゆることを行なうことです。
【注】
(iii)のフェンスの囲繞は万一を考えてのことです。
イヌワシ研究会では、獲物の獲得時におけるワシの目の広角レンズから望遠レンズへの切り替えを強調しますが、障害物に対する動物の学習効果をどう考えているのか疑問です。
このような対策を行なうことで、イヌワシをはじめとする鳥類の被害は十分、未然に防止できると考えます。
どうぞ、我々地元民の思いをお受けとめいただき、適切な審査をいただきますようお願いいたします。